「ううん、うちだって似たようなものだよ。車をあまり使えないから重たいものが買えないって、お母さんがぼやいてた」

 ちょっと走っただけなのに、喉かわいちゃったよと呟いてから、一花は麦茶を一気飲みした。

 私は空になったグラスに麦茶を注ぎ足しながら頷いた。

「うんうん。一花のところもお母さんしか外に出られないもんね」

「……それがさ、今、弟も病院に行ってて、もしかしたら入院かも知れないんだ」

「どうしてなのか、聞いてもいい?」

「うん。聞いてほしくて来たから」


 一花の話は予想以上に深刻なものだった。

 一樹君は外へ出られず、支援学校で毎日行っていた訓練もできなくなったため、急激に筋力が弱ってしまったとのこと。一花が先生の代わりに訓練を続けたけれど、器具も場所もない自宅でできることは限られていたから、効果は期待できなかったそう。

 それでも一花は毎日必死に弟と訓練を続けた。学校へ通えず、外に出られない自分にできることはこれしかないと思ったから。

 ところが、訓練の最中にバランスを崩した一樹君が倒れてしまい、動く方だった右手を負傷してしまった。