窓の外をぼんやり眺めていたら、黒い帽子を被った長い髪の女性が、二号棟からこっちへ向かって走ってくるのが見えた。

 一花だ。

 見つかったら叱られるのに、凄い度胸だ。


 私もすぐ玄関へ出て、ドアを開けて待ち構える。階段を上ってくる足音がだんだん近づいてきた。

 すぐにドアの入り口から身体をねじ込むように入れてきた。

 それから私がドアを閉めたのを確認したあとで、やっと一花がかすれた声で喋った。


「おはよ、綺羅。元気だった?」

 ああ、いつもの一花だ。何も変わらない一花だ。

「おはよ、一花。私は元気だよ。一花は?」

「私も元気。だけど、弟がね……」

「え?」

 一花の弟・一樹(かずき)君はまだ小学生で、生まれてすぐ病気にかかり、体の左側が動かなくなってしまったそうだ。

 車椅子を使っていることもあり、私達が通っていた校区の小学校ではなく、特別支援学校に通っていたはず。

 その一樹君に何があったのだろう……。