一時間ほど経っただろうか。

 理科室のドアが開く音がしたので静かにしようと思ったのだけれど、しゃっくりが止まらない。


「安本さん、ここに来てたんだ」

 顔を見なくてもわかる。準備室のドアを開けたのは、科学部の守屋(もりや)優理(ゆうり)だ。

「そっとしといて……」

 多分彼は気づいている。なぜ私がここで泣いているのか。これでも毎日放課後を一緒に過ごしてきた仲間だ。今はほっといて欲しいという私の気もちが理解できる男子だと思っていた。

「そうしてやりたいけど、もうすぐ総下校だ。鍵締めて帰らなきゃ」

「……私が、っく、締めるから……」

 しゃくりあげながらも、必死に伝えた。早くひとりにして欲しかったから。それなのに。

「泣きながら職員室へ鍵返しに行けないだろ。俺が締めるから、鍵を出して」

 守屋君は穏やかにそう伝えてから、突っ伏したままの私の肩を、軽くトントンと叩いた。こういう時、優しくされると余計に涙が止まらなくなる。