「守屋君、長男だもんね。やっぱり跡取りだから?」
守屋医院は守屋君のひいおじいちゃんの代からこの場所で開業している内科だと聞いていた。だから彼も当然のようにこの病院を継ぐのだろうと私は思っていた。
『俺、多分ここの跡は継がない。というか、継げない』
「え? どうして?」
思わず聞いてから、すぐにしまったと後悔した。『カルマの火』の当日、守屋君の家でのやりとりを思い出した。松本君から忠告を受けていたことも。
だけどもう、口から出てしまった言葉は取り消せない。少しの沈黙のあと、守屋君が小さな声で私に教えてくれた。
『俺、養子だから』
もしかしたら、という予感が的中した。予感はあったけれど、実際に打ち明けられてみると返事に困った。何と言葉を返せばいいのかわからない。それでも、ただ黙っている訳にはいかず、とりあえず相槌を打つ。
「うん……」
『弟と妹は実子か、少なくとも母と血のつながりがある。だから、病院は弟が継ぐ方がいい』
「そう、だったんだ……」