今日もいつもの時間に電話が鳴った。

 夜、八時を少し過ぎた頃、おばあちゃんがお風呂に入る時間を見計らって掛けてきているのではないかと思う。

 おばあちゃんもこの時間が私の電話タイムだと知っているから、気を利かせてこの時間をずらさないでお風呂に入ってくれるのだろう。

「はい、安本です」

『守屋だけど』

 やっぱり。あの日から毎日この時間に電話をくれるのは守屋君。

 電話越しに届く気遣いが嬉しい。普段の話し声より少し低めなのは、リラックスしているせいなのだろうか。私は電話だと声のトーンが上がるのに。

「うん。いつもありがと。今日は何してた?」

『今日も勉強と筋トレ、かな。あとはゲーム』

「勉強、頑張ってるんだ。私もそろそろやらなきゃ」

『今は夏休みだし、宿題出されないままだけど、宿題をもらったつもりで勉強してるよ』

「そっか。やっぱり守屋君は偉いなぁ。受験のために頑張ってるんだね」

『一応ね。……医学部に進まないとならないから』

 お医者さんの息子だから、当然のようにお医者さんになることを期待されているのだろう。