守屋君が松本君に椅子を譲った。そのまま守屋君は、私がやろうとしてできなかった部屋の片づけをしている。松本君が手慣れた様子でデスクトップPCの電源を入れるのが見えた。
真っ青な画面の中央に、ウインドウが表示されている。
「ん? パスワード要求されたぞ。何だかわかるか?」
「ああ、多分これかな」
再びデスクトップPCの前に座った守屋君が数字をいくつか入れた。
一回目、二回目、三回目と繰り返し……。焦りの色が見えた五回目でやっと開いた。
「弟と妹の誕生日だった。多分、物置にしまう前にパスワードを変えたんだろう」
「危なかったな。これ以上間違えたらロックがかかるところだったぞ」
「そう……だろうな」
不自然な静けさが部屋の中に広がる。
どうして、跡取り息子である守屋君の誕生日ではないのだろう。弟と妹の誕生日だということになぜ気づいたのだろう。しかも後から変更されたと言っていることから、最初は守屋君自身の誕生日だということを知っていたのかも知れない。
私はまた、松本君を見た。彼も私を見ていた。その表情はさっきと同じ。
『今は喋るな』
そう語っていたから、私は静かに頷いた。
