「優理は先に帰ってPCの設定をし直すってさ。俺達も部禁だからここに居てもしょうがないし。じゃあ、そのまま行くぞ」
「うん。いつもの部活の時間まで情報収集させてもらっちゃおう」
「そうだな。俺の家だと、ちょっと父がめんどくさくてさ。パスワード設定されていて、俺だと設定変更できないと思うから」
松本君はお父さんのことをさらっと『めんどくさい』なんて言っていたけれど、それは両親がいない私に対する彼なりの気遣いなのだと思った。
私はそれに気づかないふりをして、彼と一緒に玄関を出た。
女子のグループが私達二人で下校するのを見て、何かコソコソと喋っているのが目に入ったけれど、それにも気づかないふりをした。
松本君は私にとって守屋君と同じくらい大事な『部活の仲間』だけれど、彼は身内のひいき目を抜きにしてもモテる。
本人はめんどくさそうにしているけれど、女子からきゃーきゃー言われるようなタイプだ。
そんな彼が私と一緒に下校するなんて、面白くないと考える女子があちこちにいるのだろう。だけど私もこういう時の対処には慣れている。
気づかないふりをすることで、私は今まで目にしてきた嫌なことから逃れる術を身につけてきたのだから。
それでもわざと大きな声で、自分たちが上の学年になった時の部活がどうなるのかなどという話をしながら歩いた。
