優理君の今の言葉を受けて、彼のお母さんがハンカチを目頭に当てた。

 彼の手紙はまだ続く。


「俺はこんなに幸せだったけれど、同じ時期に児童相談所で一緒だった綺羅は、実の親から育児放棄され、体の弱い祖母に育てられていました。

 彼女と最初に出会ったのは、まだ二歳の頃です。

 それから十年後、中学生になった綺羅は、あの頃と同じ人懐っこい笑顔を時々見せてくれましたが、引っ込み思案で自己肯定感の低い、目立たない女子になっていました。

 育った環境の違いで、人格まで変わってしまうのだと、俺は怖くなりました。

 最初は綺羅に対して、可哀想であるとか、同情する気もちが強かったのですが、いつしかそれが変わりました。

 謙虚で控えめでありながら、芯の強さを感じました。

 小さい頃から「生きてる証拠」だと言って、痛みも苦しみも受け入れ、周りを安心させようと笑っていること。

 それなのにちょっと鈍くて、俺からの好意は素直に受け入れずに「立場が」とか「釣り合わない」などと言って逃げようとするところ。

 全てが愛おしいと思ったのです」