「じゃあ、そのまま持ってて」

「うん」

 教室の後ろの扉にいた私に紙コップを手渡した優理君は、もう一方の紙コップを持って、対角線上にある黒板近くの窓側方向へ移動した。


 紙コップの底についた糸がぴーんと伸ばされるまで、後ろに下がっていく。

 すぐに張り詰めた糸の手ごたえを感じた。


「耳に当てて」

「うん」

「じゃあ、聴いてて」

「うん」


 白い紙コップを左耳に当て、優理君に向かって頷いた。

『あーあー、聴こえますかー』

 お決まりの言葉が紙コップ越しに伝わってきた。

「聴こえますよー」

 私も返事をすると、優理君がにっこり笑った。

『綺羅とこうやって糸電話で話すのは、とっても久しぶりだね』

 そう言われて、考えた。今日が初めてだと思ったけれど、違うらしい。

 中学校の時は、糸電話なんてやっていない。

 もっと小さい頃に、二人で糸電話をした……?


 ……あーあー、きこえますかー

 ……きこえますよー

 きらちゃんですかー

 そうですよー! ゆうくんですかー……