「綺羅の良いところはそこ、だよな。他人にさりげなく親切にできること、そして『してやった』っていう恩着せがましいところがないこと」

「……?」

 ますます、わからない。

 私は優理君に何かを『してあげた』のだろうか。

 覚えていない。

 優理君が私にしてくれたことはだいたい覚えているのだけれど。


 隣の席だった頃、よく文房具の貸し借りをした。

 私が風邪で休んだ時は、ノートを貸してくれた。

 高校生になり、同じ部活になってからは、実験の準備や後片付けを手伝ってくれた。

 カルマの火のあとは、毎日電話をかけてくれて、勉強も教えてくれた。


 それに対して、私は何かしてあげたのだろうか。全く覚えていないけれど。

 考え込む私に対して、優理君が言った。


「そろそろ、大事なおばあちゃんのお見舞いに行った方がいい。この話はまたあとでゆっくり話そう。それから、会えるようになったけれど、これからも時々、電話をかけてもいい?」

「うん。もう行くね。電話、またかけてくれたら嬉しいな」


 私がそう答えたら、優理君は満足そうな表情を浮かべてこう言った。

「明日また会えるって、今まで当たり前だと思っていたけれど、本当は特別なことだったんだよな……」

「じゃあまた明日って言えるのって、幸せだよね」

「この幸せ、長く続くといいな」


 そう言って、二人で学校を出た。

 夕日の反対側には今もなお、大きな流れ星が見えていた。