優理君がこっちにやってくる。

 電話越しの声ではなく、本人と直接話すのがとても照れ臭い。

 何か、話さなくては。声が聴きたい。


「あのね、私、この四か月間、ちっとも寂しくなかったよ。ミサイルがいつ飛んでくるかわからない時も、電力不足で寒くてしょうがない時も、優理君と話していたら忘れられたから」

 優理君がすぐ目の前に来た。

 理科準備室で私が泣いていたあの日と同じ、優しい表情が見えた。


「俺も、綺羅との電話、楽しかったよ。世界情勢が不安定な時も、実の親と今の親が揉めている時も、電話で話すネタが増えたって考えたらあんまり辛くなかった」


 話すネタ……私もいつだってそれを考えていた。

 家から出られず、ラジオのニュースとおばあちゃんとの会話だけという毎日で、優理君との会話がかけがえのないものになっていたから。

 少しでも楽しい話、変わったネタはないだろうかと、日々考えていたような気がする。

 それもこれも、少しでも長く優理君と話したかったから。