その言葉を待っていたかのように、松本君の背中の黒い炎が消えた。

「安本さんは優しいな。色々言われてただろ」

「え? そうだっけ?」

 私がわざととぼけたところで、チャイムが鳴った。

 それを合図に、みんなが一斉にその場を離れる。

 すると、松本君はみんなから聞こえないように、そっと私に近づいて話す。

「安本さんのそういうところが、優理の『俺の綺羅可愛い!』に繋がるんだろうな」

 チャイムの音に混ざって、今、とんでもないことを言われたような気がする。

「ななななんて?」

「本人から直接聞けばいいさ。俺なんて毎週電話でのろけ話聞かされてたよ」

「のろけ……嘘だよそんなの」

「あれがのろけじゃないとしたら、優理が本気出してのろけたらどんな話になるんだ? ある意味聞いてみたいけど俺もうお腹いっぱい」

「だから違うって」

 さっきまで泣きそうな気分だったのに、あっという間にどこかへ吹き飛んでしまった。

 授業に集中できるか心配になるほど、いろんな感情がぎゅうぎゅうに詰め込まれた。