私はお父さんのことを知らない。

 どこに居るのか、どんな人だったのか。

 もう、それを知ることもないだろう。


 おじいちゃんにも会ったことがない。


 唯一、今も連絡を取り合うおばあちゃんの妹だって、娘さん夫婦と孫に囲まれて暮らしている。

 私を引き取る余裕などないはず。

 肉親に頼れる人がいない、高校生の私はこれからどうすればいいのだろう。

 泣きそうになりながら、唇を噛み締めて集中治療室を見つめる。

 ここで今、私が泣いても何の解決にもならない。

 おばあちゃんはそんな事を望んでいない。

 私がどうしているか、心配でたまらなくなって、目を覚まそうと必死に戦っている。


 逆に、もしもおばあちゃんが話せたとしたら、今の私に何と言うか考えてみる。


 ……綺羅、おばあちゃんは大丈夫。先生も看護師さんもいるから。それより学校はどうしたの? 早く行きなさい……


 私の頭の中に、いつものおばあちゃんの声がリアルに再生された。

 おばあちゃん、私、起きるまで待とうと思ったけど、考えてみたら普段からおばあちゃんが寝てるうちに学校へ行ってたよね。

 私が学校から帰ってきたら、おかえりって言って欲しいな。

 心の中で呟いて、病院をあとにした。