我が家では、トイレに鍵をかけないことにしていた。

 古い市営住宅のドアは立て付けが悪くなっていて、一度私が入った時に鍵が開かなくなったことがあったから。

 あの時は外側からおばあちゃんがドライバーで開けてくれたけれど、一人の時にそうなったら困るからと、鍵を開けてドアだけ閉めることにしていた。

 今は緊急事態だから仕方がない。大きな声で呼びかける。


「おばあちゃん、開けるからね!」


 ドアを開けた私の眼に飛び込んできたのは、トイレから立ち上がってすぐに倒れてしまったらしい、ぐったりとしているおばあちゃんの姿だった。

「おばあちゃん! おばあちゃん!」

 呼びかけたけれど、反応はなかった。

 壁にもたれかかるようにしていた頭をゆっくりと起こし、表情をおそるおそる見た。

 目を閉じて、眠っているようだった。

 慌てて、心臓のあたりに手を当てる。まだ、動いているのがわかった。

 早く救急車を呼ばなくては。

 おばあちゃんをそっと横に寝かせて、リビングに走った。