すると、一花が突然私の本棚から教科書を取り出し、パラパラとめくりだした。

 国語、数学、理科、社会……大事なところには印や付箋を付けているので、勉強していた跡がわかるはず。

「ゆ……守屋君、すごく教え方が上手なんだよ」

 危ない。優理君なんて呼んだら、どこまで突っ込まれるかわからない。

 でも、普段勘が鋭い一花も、そんなことは全く気にする様子を見せず、必死の形相で私の教科書を睨みつけている。

「えええええ! ちょっと、何この抜け駆け。私なんて授業で教えてもらった七月の範囲からちっとも進んでないんですけど! ズルい!」

「いや、他にすることなかったし。一花は何してたの?」

「そりゃあ、弟の面倒見るでしょ? それから、まあちょっと家事を手伝って、あとは……あれ、私、この四か月間、外に出ないで何してたんだろう?」

「多分それ、多くの子どもが同じだと思うよ。大人も、だったりしてね」

 過去を振り返って愕然としている一花にお茶を淹れる。

 あの日は冷たい麦茶だったけれど、今は熱々のほうじ茶だ。季節が流れるのは本当に早い。