「………」

それを聞いて、よけいに僕は言葉につまる。

僕は両親から解放されたいのに、美希さんは真逆のことを思っている。

ーーーーーー美希さん。

彼女の育った家庭環境と自分の育った家庭を比較すると、僕の複雑な感情が肥大化する。

「でも、後少しなんです。お兄ちゃん今、大学四回生だから、来年の春には社会人になるんです。そしたら、私もこの仕事をやめれるんです」

ーーーーーーどうやら、そうらしい。

うれしそうに言う美希さんだったが、彼女がこの仕事をやめてしまったら僕はもうこうして二人で会えなくなる。そう思うと、悲しさもあった。

「美希さん。もし、この仕事をやめたら、僕と……」

「仕事をやめて自由になれたら、幼馴染の裕ちゃんに告白することを決めてるんです。そう言う意味でも、私はがんばれてます」

「そうなんだ」

告白する前に、僕の初恋は終わった。

「未来さん、なにか言いかけました?」

「いや、べつに」

僕は、拗ねた顔をした。

「え、もしかして怒ってる?」

僕の頬をつんつんと人差し指で突く、美希さん。その口調は、また親しげだった。

「まぁ、少しだけ」と、僕はかすれた声で言った。

どんなに願っても、かなわない恋。彼女に会えば会うほど、僕の胸が苦しくなる。それでも彼女と一緒にいるときが幸せで、切なくて、苦しくて、僕の心が複雑になる。