「どうしますか?待ちますか?それとも、帰りますか?別の女性なら、すぐにでも入れるですけどね」

眉を八の字にして、淡々と言う松岡店長。

「ちょっと考えさせてください」

そう言って僕は一旦、左手につけている腕時計に視線を落とした。今の時刻は、午後六時十分だった。

「どうしますか?」

そう言って松岡店長が、もう一度僕に訊ねた。

『一時間も待てないなんて、私への愛は結局その程度だったのね』

また、美希さんの幻聴が聞こえた。

「………」

『私は、こんなに栗原さんのことを愛しているのに。栗原さんは、私のこと嫌いになったの?』

美希さんのことを強く思っているせいか、勝手に自分の頭の中で彼女のイメージを作り出してしまう。そしてそれが、幻聴として聞こえる。

「どうしますか?」

悩んでいる僕を見て、松岡店長が低い声でもう一度訊ねた。

「一時間待ちます」

「ありがとうございます」

僕の言った言葉を聞いて、松岡店長は笑顔のまま深々と頭を下げた。

『ありがとう、栗原さん』

また、彼女の幻聴が聞こえた。