「未来、忘れ物。療育手帳」

重い足取りで家から出ようとしたとき、母親が療育手帳を僕に渡そうとした。

「これは、いらない」

「時間がないときに、文句を言わない」

僕の想いを聞き入れてもらえず、母親は怒った口調で療育手帳を渡そうとする。

「これから私だって仕事に行く準備で忙しいんだから、朝から文句なんて言わないで」

「未来、早く手帳持って学校に行け。なんか不満でもあるのか?」

「……別に」

僕と母親の会話に、父親が横から割って入ったのでそれからなにも言えなかった。僕は、療育手帳をポケットにしまった。

ーーーーーーなんで、自分の息子なのに僕の気持ちを汲んでくれないの?療育手帳が原因で、いじめに遭う可能性だってあるでしょ。十六年も一緒に生活してるくせに、そんなこともわからないの?

声に出せない怒りの感情と闘いながら、僕は心の中で精一杯の怒り声を上げた。

ーーーーーーはぁ、両親に文句を言いたい。

両親との折り合いが悪いせいなのか、その気持ちが増す。