父親はすでに白いワイシャツを着ており、その上から黒色のスーツを身にまとっている。春らしい桜色のネクタイをキュッと両手で上手に締め、黒いズボンを履いている。

ーーーーーー父親は、生真面目なサラリーマンだ。地方の銀行に勤めており、母親は同じく地方の銀行でパートで働いている。そんな二人の間に、僕のような障害を持った子供が産まれたことに両親は心配しているのだろう。

「………」

一言文句を言いたいのが本音だったが、僕は歯を食いしばってぐっとこらえた。

父と母のおかげてこの大きな家に暮らせていることは事実だし、文句を言ったところで怒られることはなんとなくだがわかっていた。

「………」

僕はちらりとテレビ画面に視線を移した後、家から出ようとした。

テレビ画面に映っていたのは僕の好きな女性アナウンサーが、最近問題となっているインターネット上の匿名掲示板サイトのことを報道していた。

ーーーーーー最近、SNSとかで人の悪口を匿名で書き込める時代になったからなぁ。

どんどん日本が情報化社会となって昔と比べて便利になっていくのはありがたいことだが、その反面、知られたくない情報まで他人に知られるのは少し怖い世の中だと思った。