「……返せ」

僕は怒ったように眉を吊り上げて、小さな声で言った。

「学校休んで、今すぐ病院行って来いよ。みんなもそう思うでしょ、これ見たら」

僕の気持ちを一切理解しようとせずに、不良生徒は周囲に療育手帳を左右に振って見せびらかす。その療育手帳を見たクラスメイトは、偏見な目で僕を見る。

「………」

もう、限界だった。急激に頭に血がのぼり、押さえられない怒りが込み上がる。そして、なぜか泣きそうになった。

「なんか、泣きそうな顔になってきたやん。そのまま泣いて、『返してください』って頼んだら」

そう言いながら不良生徒は、足の裏で僕の腹部を思いっきりけとばした。

「かは」

蹴られたのと同時に僕の体がくの字に曲がり、そのまま後方に倒れ込んだ。倒れ込んだ方向に自分の机があり、それに背中が激突する。ガシャンという大きな音が教室中に響き渡り、机が倒れた。それと同時に、僕も倒れた。

机の上に乗っていたチャックの開いていたふでばこの中身が周囲に錯乱し、僕の足元に鋼色のものが金属音を立てて床に落ちた。刃先が冷たく、金属製のものだ。

ーーーーーーハサミだ。

僕はこっそりとハサミの持ち手をぎゅっと握りしめて、不良生徒をうるんだ瞳でにらんだ。