「だから、帰らないの?」

彼女がやさしい口調で、僕にもう一度同じ質問をした。

「帰るよ」

緊張した面持ちで短く答えたが、僕の心臓の鼓動は急速に速くなっていた。

「君は……君は、帰らないの?もう、みんな帰ったみたいだけど」

「帰りたいのだけど、今から仕事なんだ」

そう言った彼女の表情は、どこかさびしそうだった。

そういえば桜を見ていたそのときの彼女の表情も、僕の目にはさびしそうに見えた。

ーーーーーー気のせいかな?

「仕事……ですか?

緊張しているせいなのか、意識的に敬語で話す僕。

高校生にもなると、アルバイトをするのが普通のことだと思えた。現にさっきの男子生徒だって、今日からアルバイトとか言ってたから。

「途中まで一緒に帰りませんか?栗原未来さんですよね。前の席なんで、名前すぐに覚えましたから。けれど、最初すごく殴られていたときは見てるの少し辛かったですが……」

「ははは」

美希さんにそう言われて、僕は笑うことしかできなかった。そして、彼女と一緒に学校を出た。