「おい、だからなんでこっちをジロジロ見てたん?」

不良男子生徒に罵声を浴びせられながら、倒れている僕の体を足の裏で強く踏まれた。新品だった真っ白なカッターシャツが、一瞬で汚れた。

ーーーーーーただ、見てただけでこんなにいじめることかよ?てか、お前なんか誰も見てないわ。先生、頼むから早く来てくれ。なにやってるんだよ。

僕は、心の中でそう思うことしかできない。

「ご、ごめんなさい。でも、君のことを見てたわけでは……」

「いやいや、めっちゃ見てたやん。うそつくなよ」

僕の弁解も全く聞き入れてもらえず、一方的にまくし立てられる。

ーーーーーーたしかに視線はそっちに向いていたのかもしれないけど、お前のことなんかほんとうに見てないから。しかも、それだけでそんなに怒ることかよ?

自分が言い返せない弱い人間なのはわかってるが、それゆえに怒りが込み上がる。

あいかわらず周囲からの煽りは続いており、ただただ僕の嫌な雰囲気だけが教室中に漂う。

「………」

僕はほんとうに見ていた、美しい彼女の方に視線を向けた。女性だからケンカやいじめなんて見るのも嫌なのだろう、彼女は教室の窓から京都の桜と街並みを眺めていた。

教室の窓の外から見える、ピンク色の桜を彼女はどこかさびしそうに見ているように見えた。