「めずらしいわね。いつもは休みたいとか言ってダラダラしてるのに、今日はこんなに早く用意するなんて」

母親は一重の細い目をカット見開いて、僕を見た。

ーーーーーー当然だ。今日は早く学校に行って、先週のことを美希さんに謝るつもりだから。

「………」

僕は無言のまま、パジャマから慌てて学校の制服に着替え始めた。高校生になって一年近くネクタイを締めているせいか、少しうまくなった。

リビングには口うるさい父親の姿はなく、朝早くから会社に出社したらしい。

昨日ネットから美希さんが働いている風俗店の公式ホームページを調べたが、彼女の名前はすでに削除されていた。それと同時に、彼女の日記も削除されていた。

「………」

僕と美希さんだけの秘密の日記が消えたことによって、なんとも言えないような気持ちになった。彼女の日記が削除されたのはもちろん悲しかったが、これで美希さんがインターネット上に悪口を書かれることはないだろう。

「行ってらっしゃい」

手を振って見送る母親に、僕は「行ってくる」と、言って外に出た。

外に出ると、不吉なことが起きそうなドス黒い巨大な雲の塊が空を覆っていた。

「春なのに、嫌な天気だな………」

僕は空を見上げて、顔をしかめた。