「気持ちはほんとうにうれしいけど、もういいですよ」

また、彼女に断られた。

美希さんの表情がわずかに曇っていたが、それに僕は気づかなかった。

「親なんかどうでもいいよ。ガミガミうるさいし、いてもいなくても一緒さ」

「………」

僕の悪口を聞いて、美希さんの表情がさらに曇った。それに、僕は気づかない。

「毎日毎日僕のことを怒って、ほんと親なんかいらないよ」

「ごめん、未来さん。私、仕事に行かないと」

そのとき、美希さんが僕から逃げるように走り去った。歩道に積もった雪道にくっきりとくつの足跡を残しながら、僕の視界から姿を消して行く。

ーーーーーー『私の母親、病気がちで働くの難しいの』

その瞬間、美希さんの家庭事情を思い出した。

「ち、ちがうんだ。美希さん」

慌てて彼女を追おうとしたが、美希さんは遠く離れて行く。

「美希さん………」

雪が降る中、彼女の名前を口にしたが、すでに僕の視界から美希さんの姿はなかった。