「もう、そろそろ帰りましょっか?」

鴨川の紅葉を十分満喫した僕と美希さんは、家に帰ろうとしていた。

辺りもすっかり暗くなり、夜空に淡い黄色の満月が浮かんでいた。辺りが暗くなったせいで、血のように赤い紅葉がさらにきれいに見える。

「待って、美希さん。帰る前に、言い忘れていたことがあるんだ」

「なに?」

そう言って細い首をかしげる、美希さん。

僕は、大きく息を吸った。それと同時に、冷たく澄んだ空気が僕の肺に入る。

「あの。実は僕、君のことが………」

告白する前に、僕の唇と彼女のやわらかい唇が重なった。

辺りが暗いせいで彼女の表情ははっきりと見えなかったが、僕には悲しく笑っているように見えた。

「忘れていましたね。いい夢、見れるおまじない。これで今日はいい夢が見られますよ。だって、とっておきの私のおまじないをしたんだから。それとね、未来さん………」

にっこりと彼女は微笑みながら、彼女は僕に向かってピースした。

その後に言った彼女の言葉が、僕の脳裏に焼き付いた。

ーーーーーー告白できなかった。

そう思いながらも、僕は放心状態だった。

彼女のとつぜんなキスはすごく一瞬で短ったけれど、それは僕の記憶に一生刻まれた。