「ごめんな、栗原君。待ったかい?」

「いえ」

数十分後、彼が店の外から出てきた。

「未来君。いつも、仕事でも学校でも美希のことを気にかけてくれてるみたいだね。ありがとう」

「い、いえ。そんな………」

美希さんのお兄さんがペコリと頭を下げ、僕にお礼を言った。

兄妹であってか、近くで見るとやさしい雰囲気と顔立ちは、どことなく美希さんに似ていた。

「美希が学校を休んでいる間、ずっと栗原君のことを話していたから。一言、お礼を言いたかったんだ。ほんとうに、ありがとう」

そう言って、美希さんのお兄さんがもう一度頭を下げた」

「い、いえ。それより美希さんは、家で僕のことをなんて話していたんですか?」

緊張した表現を浮かべながら、僕は美希さんのお兄さんにそう訊いた。

「おもしろい方とか。一緒にいたら、楽しいとか。それと、私との約束守ってくれる、とてもやさしい方って言ってましたよ。栗原君の悪口は、美希は一言も言ってないので心配しないでください」

「そうですか」

それを聞いて、僕は安心した。そしてお兄さんも、彼女の仕事を知っているようだ。

「おーい、佐伯。代わりにレジ頼む」

「あ、わかりました。今、行きます」

僕と話しているとき、佐伯さんのお兄さんがレジの仕事に呼ばれた。

「僕のせいで、妹にはすごく辛い思いをさせている。兄として、失格だ。けれど、未来君と話しているときが妹もうれしがってる。だから、これからも美希のことをお願いね」

「わかりました」

美希さんのお兄さんにそう言われると、僕はすなおにうれしかった。

「仕事があるから、じゃあ」

そう言ってお兄さんは、仕事に戻った。