「今日は、ありがとう。気をつけてね」

個室から出て、かなさんがていねいに見送る。

「最後に聞いていいかな?」

僕は、低いトーンで彼女に訊いた。

「いいけど、なに?」

「僕の好きな人も、君と同じ仕事をしてるんだ。そんな人を好きになるんて僕、おかしいかな?」

苦笑いをした僕の瞳に、どこか哀しい色が浮かんでいた。

「それが、その彼女の秘密なんだね」

そう言ったかなさんの口調は、やさしかった。

「でも、そんなの全然おかしくないよ。むしろ同じ立場の目線で言うけれど、私はすごくうれしいよ」

仕事で見せる作り笑顔とは思えないほど、かなさんは頬にえくぼを作って笑った。

「ありがとう」

僕は、その言葉がたとえ嘘だったとしてもうれしかった。