「今日は東京に住んでいる、大学の同級生の友人に会ってくるから。もしかしたら、一泊泊まるかもしれないから、家のお留守番お願いね」

母親がにこにこと笑いながら、うれしそうにそう言った。

「今日は、俺はむりやぞ」

朝から父親が不機嫌そうな顔をして、はっきりと言った。

「どうして?」

「今日な仕事が、土曜日に入ったんや。お前みたいに遊びとは違って、俺は土曜日も仕事やね。お留守番ぐらい、お前がしろ」

時間がないのだろう、父親がスーツに着替えながら声を荒げた。

「私も久しぶりに会う友だちなんだから、東京に行きたいわよ」

いつも父親の言いなりの母親が、反論する。

「だったら、行ったらいいやんか。俺は、仕事が忙しいね。仕事が!」

父親は怒声を上げながら、舌打ちをして家から出た。

「未来、ひとりでお留守番できるよね。どうしても大事な用事があるから、ひとりでお留守番やってね。私、未来のこと信じてるから。お願いね」

この前とは、まるで人が変わったかのように母親はやさしい口調で僕に言った。そんな言葉を言い残して、母親もそそくさと家から出た。