『六月の下旬から体調を悪くしたお母さんは、病院に行って検査をしてもらったんだ。そしたら末期の肝臓がんって、病院の先生から診断されたんだ』

電話の向こうから聞こえる、翼の悲痛な叫び声を聞いて私の胸が苦しくなった。

「うそ……でしょ……」

私は、かすれた声でつぶやいた。

『うそじゃない。昨日、お母さんが俺に言ったんだ。〝死ぬ前に、梢に会いたい。大阪に戻って来てほしい〟って。なのに、どうして姉ちゃんは戻って来てくれなかったんだよ!』

「………」

『そんなに、お母さんがきらいだったのかよ!』

「………」

翼の怒り声を聞いて、私はなにも言えなくなる。

『姉ちゃんはお酒ばっかり飲んでるお母さんをきらっていたけど、あれはスナックの仕事をしていたからしかたなく飲んでいたんだぞ!』

電話越しから翼は、うったえるかけるように私に言った。

「うそでしょ………」

私の口から出た声は、ふるえていた。

お母さんが夜おそくまでお酒ばかり飲んでいたことは知っていたけれど、それが仕事の為だとは知らなかった。