「君の名前、聞いてもいいかな？」

中年の男性は笑みを浮かべながら、やさしい口調で私に訊ねた。

「清水……じゃなくて、柊千春です」

一瞬自分の名前を言いかけたが、なんとかギリギリのところで店の名前を言った。

「早く、慣れないとなぁ………」

私は目の前にいる男性に聞こえないぐらい、小さな声でボソリと呟いた。

「千春ちゃんか……」

それを聞いて中年の男性は、うんうんとうなずいた。

「あの〜。お名前、教えてもらっていいですか？」

私は、敬語で中年の男性に訊いた。緊張しているせいか、私の声はかすれていた。

「………」

「あの〜、お名前………」

「あ、ごめん。僕の名前は、斎藤和樹だよ。でも、千春ちゃんが呼びやすい名前を呼んでくれたらいいよ。おじさんでも、斎藤でもね」

一瞬自分の名前がすんなり出てこない彼に違和感を感じたが、にっこりと笑う姿を見たら、そんな感情はすぐに消えた。