「ねぇ、知ってる。梢?」

友人の田村詩織が、スマートフォンをいじりながら私に話しかけてきた。

「なにが?」

私は細い首をかしげて、詩織の方に視線を向けた。

詩織とは京都の大学一回生のときに出会って、そこからなかよくなった。学部も同じ文学部だったせいか、なかよくなるのは早かった。

「この殺人事件のニュース」

そう言いながら詩織が、スマートフォンの液晶画面を私に向けた。私の瞳に、スマートフォンの液晶画面に映っているネットニュースの文字が見える。

【二十六歳の化粧品会社で働いていた女性、松本結衣さんが何者かによって殺害!犯人はまだ見つかっておらず、現在も逃走中。警察は犯人を見つけ次第、捕まえる方針………】

私はこのネットニュースを見た瞬間、目を丸くして驚いた顔になった。

松本結衣は、私の働いている大手風俗店で一緒に勤務していた女性の本名だったから。

「………」

私は穿いているデニムのストレートパンツのポケットから、ピンク色のスマートフォンを取り出した。

もしかしたら違う女性かと思って、私はスマホからこの事件のことをかんたんに検索した。まだ名前が一緒だっただけで、顔は違うかもしれない。かすかな希望を抱いて、私はスマートフォンに視線を落とした。

「嘘………でしょ………」

私の知っている松本結衣の顔写真が、ネット上にアップされていた。

その松本結衣の顔写真は笑っており、とても彼女が殺されたとは思えなかった。