「なぁ、梢。今度は、お酒飲みに行こうな」

「えっ!」

突然、彼に下の名前で呼ばれて、私の心臓の鼓動が速くなった。

彼はまっすぐ私を見つめており、私の顔がかっと熱くなった。

ーーーーーー今、私のこと、〝梢〟って呼んでくれた?名前で呼んでくれたの?

ドクドクと一秒ごとに加速する、私の心臓。それとともに、私の頭の中は真っ白になった。

「梢、なんか言ってくれよ。梢が飲み屋嫌いだったら、べつに俺は他の場所でもいいんだぜ」

彼がまた、私のことを〝梢〟って呼んだ。

「も、もちろんいいけど。詩織も入れて、三人で行くんだよね?」

はにかんだような笑顔を浮かべて、私は小さな声でそう訊いた。

「梢は、俺のこと嫌いなのか?」

「えっ!」

私がそう尋ねると、彼がワントーン落としてさみしそうな声で訊いた。

「えっ!」

私の口から、また〝えっ〟という言葉が漏れた。

彼を見ると、水のようにうるんだ瞳で私をまっすぐ見つめていた。