午前十一時二十分。私は地下鉄と市バスを乗り継いで,通っている大学に着いた。

六月下旬の今頃の季節は、どんよりとした空が広がっていた。今にも雨が降り出しそうな鈍色の雲が空をおおっでいたが、今の私は天気と真逆で晴れやかだった。

「梢、犯人捕まったらしいね」

「うん」

通っている大学に到着して講義に入ると、友人の田村詩織が声をかけてきた。

さわやかな水色のTシャツに、白いスカートを穿いていた。パッチリとした目がとても印象的で、透明感のある肌。薄く化粧をしており、あま色の長いやわらかい髪の毛からかすかに匂う、シャンプーの香りが私の鼻腔をくすぐる。

「犯人、二十五年前にも、同じ事件を起こしてるらしいね」

詩織がスマートフォンをいじりながら、淡々とした口調でそう言った。

「そうらしいね。テレビでも最近、そのニュースばっかりだよ」

私は、斎藤のことを思い出して答えた。

どのチャンネルを付けてもテレビはそのニュースを報道していたが、それ以上に情報網を駆使していたのは、現代のネットの社会だった。犯人が逮捕されたのと同時に、匿名でBBSに書き込まれた。