「お前が、斎藤だな」

怒鳴り声を上げながら、連続して私のアパート の中に入ってきたのは、数人の警官だった。

「なんでここに、警官が………」

それを見た斎藤は、焦った様子になった。

「そこにいる彼女が、私たちに通報したんだ」

「えっ！」

冷静に言った男性警官の言葉を聞いて、斎藤は素っ頓狂な声を上げた。

「嘘だろ……千春ちゃん？」

斎藤が、緩慢な動作で私の方に視線を移した。

彼の瞳が水のように揺れ，哀しみの色が浮かび上がっていた。

「ごめん」

小さな声でそれだけ言った私は、彼から逃げるように慌てて警官の側まで走った。

「僕のことを好きだと言ってくれたじゃないか？お客の中で、〝一番好き〟だと言ってくれたじゃないか？どうして、千春ちゃん……」

斎藤は、この現実が信じられないのか、震えた声を上げた。

「ごめん、好きじゃないよ」

「嘘だ………」

冷たく言った私の言葉を聞いて、斎藤は口から震えた声を上げた。

「斎藤和樹。本名，和田哲也。お前を、殺人容疑で逮捕する」

そう言って男性警官は、斎藤の手首に鉄の手錠をかけた。