後ずさりすると同時に、私の背中がワンルームアパートの狭い台所の扉にドスンと当たった。

「えっ!」

私は、涙目で後ろを振り向いた。

きれいなカゴの中に収納されている白い食器や、フックに吊るしてあるフライパン。飲み干した数本の缶ビールと、灰皿の中にあるタバコの吸い殻。そして、白いまな板の上に乗ってある包丁が私の瞳に映った。

「僕のこと好きだと言ってくれ、千春」

顔を真っ赤にして興奮した様子で、さらに私に詰めよる男性。その差、二メートル。

「やめて、近寄らないで!」

私は細い首を左右に振って、拒絶した。

「どうして………どうして、僕の気持ちをわかってくれないんだ。こんなに僕は、千春ちゃんのことが好きなのに………」

私にフラれたことが相当ショックだったのか、男性はぽろぽろと泣き始めた。

「………もう終わりだ」

「えっ!」

男性はボソッとなにかをつぶやいたが、私ははっきりと彼の声が聞こえなかった。