「僕のことを〝好き〟と言ってくれ、千春。僕と一緒に幸せになってくれ、千春」

顔を真っ赤にして興奮した様子で、さらに私に詰め寄る斎藤。

その差、約二メートル。

「やめて。近寄らないで………」

私は、首を左右に振って拒絶した。

「どうして………どうして、僕のこの気持ちをわかってくれないんだ。こんなに僕は、千春ちゃんのことを愛しているのに………」

私にフラれたことが相当ショックだったのか、斎藤はぽろぽろと泣き始めた。

「………もう終わりだ」

「えっ!」

斎藤はボソリとなにかをつぶやいたが、私ははっきりと聞こえなかった。

「こんな世界、もう終わりだ。千春ちゃんと一緒に幸せになれない世界なんて………」

斎藤は泣きながら、胸ポケットから折りたたみ式ナイフを取り出した。

私の瞳映る、キラリと輝く鈍色の刃。

「えっ!」

それを見て私は、切れ長の目を限界まで見開いた。

ゾクゾクっと一瞬で私の背筋が凍り、恐怖で細い体が小刻みに震える。