「ねぇ、君」

不安そうに窓の外に目を向けていると、私の耳に女性のしんみりとした声が聞こえた。

「なに?」

私は、声のした方に視線を向けた。

私の瞳に、同じ学部の若い女性の姿が目に映った。

「今日の今朝のニュース見た?」

若い女性が、悲しげに訊いてきた。

「ニュース?」

私は、首をかしげた。

「昨日の交通事故のニュース」

「ああ、ちょっとしか見てないけど‥‥‥」

私は今朝、テレビで報道していたニュースをあいまいに思い出して答えた。

たしか、乗用車が歩道に乗り上げ、歩行者二人をはねたという、痛ましい事故だった。

「そのニュースが、どうかしたの?」

私は、首をかしげで彼女に訊いた。

「その乗用車にはねられた二人が、優太君と詩織さんなの」

ーーーーーーえっ!

涙声で言った彼女の衝撃的な言葉を聞いて、私の頭の中が真っ白になった。

寒くもないのに歯がガタガタと震えだし、私の顔が青白くなる。

「うそ‥‥‥でしょ」

私は、ふるえた声でそう言った。

「‥‥‥‥」

彼女は首を左右に振って、なにも言わなかった。

「うそよ、そんなこと!」

私はイスから立ち上がって、彼女の肩に手を置いた。

「‥‥‥」

彼女はなにも言わず、しくしく泣いている。

彼女の瞳から流れる涙を見て、今朝のニュースが私の脳裏によぎった。

「うそよ、そんなこと‥‥‥」

彼女から手を離した私は、すぐにスマートフォンを取り出してネットニュースを見た。

【乗用車が歩道を乗り上げ、歩道を歩いていた大学生の山田優太さんと、田村詩織さんが全身を強く打って死亡】

「うそ‥‥‥でしょ」

スマートフォンの液晶画面のネットニュースの文字を見て、私の口から震えた声が漏れた。

スマートフォンを持っていた私の右手が震え、瞳から涙が流れ出した。

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!私は持っていたスマートフォンを落として、顔をおおってその場に泣き崩れた。