「殺人事件のニュースの話」

詩織が、淡々とした口調で優太に教える。

「詩織。それは、女性同士がするような会話ではないだろう。なぁ、清水」

読んでいた文庫本をパタンと閉じ、優太は口から深いため息を吐いた。そして、私の方に視線を向けた。

ーーーーーー私も、下の名前で呼んで。どうして、〝梢〟って呼んでくれないの?

そう思いながらも私は、「そうだよ。もうこの話やめよ、詩織」と言った。

「そうだね、ごめん。じゃ今日は、三人でどっか飲みに行かない?三人とも講義終わったし、この後三人でお酒飲みに行かない?」

私と優太の顔を交互に見て、詩織が笑顔を浮かべて言った。

「俺はこの後ひまだから構わないけど、清水はどうする?」

詩織からの誘いをオッケーした優太は、私の方に視線を向けた。

「ごめん。私はこの後、仕事があるから………」

私は両手を合わして、申し訳なさそうに謝った。

ほんとうはものすごく優太とお酒を飲みたかったが、この後、風俗の仕事が入っていた。おまけに、今日は〝斎藤さん〟が店に来る日だった。

ーーーーーー優太と一緒に飲みたかったなぁ………。

私は、切なくそう思った。

「そうか」

それを聞いた優太の表情が、わずかに悲しそうになった。

「じゃあ、二人で行こっか?優太」

そう言って詩織は、頬にかわいらしいえくぼを作った。

「そうだな………。清水も仕事、がんばれよ」

「ありがとう。ごめんね、行けなくて」

私はもう一度、申し訳なさそうに謝った。