「はっきり言ってよ、梢。さっきから同じ言葉ばっかりじゃん!」

詩織は私をにらんで、怒ったような口調で言った。

「それは‥‥‥」

私は詩織から逃げるような一歩後ろに下がって、またあいまいな返事をした。

「私の恋、おうえんしてくれるんじゃなかったの。全部、うそだったの?」

詩織は、悲しそうに訊いた。

「それは‥‥‥」

また、私はあいまいな返事をした。

「私、初めて好きな人ができたのに。友だちの梢がおうえんしてくれると言ったから、優太に告白することを決めたのに‥‥‥」

「詩織‥‥‥」

やっと、私の口から違う言葉が出た。

「どうして‥‥‥?」

詩織は、うつむいてふるえた声でつぶやいた。

「詩織‥‥‥」

私は、心配そうな声で彼女の名前を口にした。

「どうして、こんなひどいことするの?なんで、私から好きな人を奪うの?」

顔を上げて言った詩織の瞳から、涙が頬を伝って流れていた。

「私、詩織から好きな人をうばったつもりなんてないよ。ただ、好きな人が一緒だけで、うそなんかついてないよ」

「じゃあなんで、〝おうえんするね〟って私に言ったのよ!」

「それは‥‥‥」

私は、またあいまいな返事をした。

「梢なんかもう、友だちでもなんでもないから!」

そう言って詩織は、私の前から走り去った。

「詩織‥‥‥」

小さくつぶやいた声とともに、私の瞳から一筋の冷たい涙が流れた。