「そんなわけないでしょ。優太、さっきからなに怒ってるの？」

さっきから優太がケンカ腰で話すので思わず私は強い口調で否定した。

「で、大切な用事ってなんだよ？」

優太が、もう一度訊いた。その声は、冷たかった。

「お母さんのために、大阪に帰ってたの。弟から連絡が急にその日に入って、『母親が末期の肝臓がんだから、大阪に帰ってきてくれ』って連絡が入ったの。だから、デートできなかったの」

私は、あったことを彼に正直に話した。

「それも、うそだろ」

私の言ったことを信じてくれなかったのか、優太の口から出た声は冷たかった。

「どうして、そんなに怒ってるの？デート断ったぐらいでは、〝怒らない〟って優太言ったじゃん」

感情が高ぶった私は、つい大きな声を上げた。

「ああ、たしかに言ったよ。デート断ったぐらいではなぁ」

「じゃあ、どうして？」

「デートを断ったあの日、俺、詩織と会ったんだ」

「えっ！」

優太のひどく小さな声を聞いて、私の背筋が一瞬冷たくなった。

詩織の姿が脳裏に浮かび上がり、私の顔色が青白くなる。