午前九時三十二分。いつもどおり地下鉄と市バスを乗り継いで、私は大学に到着した。広い講義室には私と同じ午前の講義を受ける学生がたくさんおり、その中に優太の姿も見えた。

「優太、LINE見てくれた？」

窓際の近くに座って耳に白いイヤホンをつけて本を読んでいた、優太に私は声をかけた。

「‥‥‥」

耳にイヤホンをしていて私の声が聞こえないのか、優太から返事はなかった。

窓から見えるどんよりとした雲からは、今にも雨が降り出しそうだった。

「優太、LINE送ったんだよ。見てくれた」

私は優太の肩をポンポンとやさしく叩いて、話しかけた。

「あ、ごめん。梢、気づかなかったよ‥‥‥」

優太は白いイヤホンを耳からはずして、そっけない口調でそう言った。

ーーーーーー気づかなかった？

いつもならイヤホンをしていても自分からしゃべりかけてくれるはずなのに、こんなに声をかけても気づいてくれなかったことに疑問に思った私。