「うん、帰るよ」

「そう」

私がそう言ったら、翼は少し沈んだ声で答えた。

「祖母の美代子おばあさんに、めいわくかけたらダメだよ!」

「わかってるよ!」

私が軽くそう言ったら、翼は強い口調で言い返した。

「そう、ならいいけどね」

そう言って私は、微笑した。

幼い頃から住み慣れた実家を手放すということは、お母さんと過ごした思い出も消えることになるということが悲しく感じた。

「姉ちゃんは、これからも京都に戻ってひとり暮らしを続けるつもりなの?」

突然、翼は責めるような口調で私に冷たく言った。

それを聞いた私は、「えっ!」と、小さく声を漏らした。

六畳の和室にある壁掛け時計の秒針の進む音が、私の耳に静かに聞こえた。