「お母さん、今までありがとう」

私は仏壇の前に置いてある、母親の遺影に手を合わせて祈った。

母親が肝臓がんで亡くなってから二週間が過ぎ、私の夏休みも残り少なくなっていた。遺影に映っている母親は笑っており、線香の香りが私の鼻腔をつく。

「じゃあ私、もう京都に帰るね」

もう一度仏壇の前に置いてある母親の遺影に手を静かに合わせて祈って、私はその場から立ち上がった。

タイムリープして母親の苦労を知れてよかったし、疎遠だった母親と打ち解けて別れることができてよかった。

「もう帰るの?姉ちゃん」

やんわりとした声が聞こえたと同時に、障子が開いた。私は、開いた障子の方に視線を移した。

ばっさり短めに切り揃えられた黒い髪の毛に、やや垂れた目。身長は私よりも低く、運動をしているのか、日焼けをした筋肉質の体型をしていた。

「翼‥‥‥」

私は、廊下に立っていた彼の名前を口にした。

母親が亡くなったのと同時に、この大阪の実家を売却することが決まった。高校生の翼は祖母の美代子おばあさんに引き取ってもらうことになり、奈良県に引っ越しすることになった。