「お母さん、おそくなってごめんね。お母さんのために、プレゼント買ってきたんだ。きれい‥‥‥でしょ」

そう言って私は、手に持っていた花束を母親の目の前に差し出した。

「‥‥‥‥」

母親の返事はない。ただ、目を閉じているだけ。

「嘘‥‥‥でしょ」

花束を持っていた私の白い手がぶるぶると震えて、その場にどさりと落ちた。

病室に花の香りが一気に広がった。

「お母‥‥‥」

私はおそるおそる、母親の手を握った。

氷のように冷たくなった母親の手が、私の手に伝わる。先ほどまで感じられた母親の体温は感じられず、今はただ冷たかった。

「お母さん‥‥‥」

私の瞳から、涙が頬を伝って流れた。その涙が、母親の頬にポタポタとこぼれ落ちる。

「嫌だよ、お母さん。なんかしゃべってよ!」

私は、ぽろぽろと大粒の涙をこぼした。

「‥‥‥‥」

何度しゃべりかけても母親の返事はなく、胸も上下に動いてなかった。

母親が死ぬことはわかっていたが、別れるとなったら死ぬことを知っていても知らなくても、悲しい気持ちは一緒だった。