「梢に心配かけたくなかったの」

「えっ!」

弱々しく言った母親の言葉を聞いて、私は驚きの声を上げた。

「ど、どういうこと?」

私は、かすれた声で訊いた。

「私がスナックで働いていることを知ったら、梢はきっと大学を進学するのをやめて、就職するでしょ。梢は、やさしいから」

ほほえみながら言う母親は、なんだか悲しそうだった。

「お母‥‥‥さん」

小さく開いた私の口から、自然とふるえた声が漏れた。

たしかに母親がスナックで働いていることを知ったら、京都の大学になんてわざわざ進学しないだろう。

そう思って私は、奥歯を噛みしめた。