「お酒ばっかり飲んでいたから私、がんになっちゃた」

首だけ動かして、母親は消え入りそうな声で私に言った。

「そう‥‥‥なんだ」

私は丸イスに座って、目を細めた。

「私を責めないの?お酒ばっかり飲んでる母親嫌いだったから、私から離れたのでしょ」

「いくら母親が嫌いでも、わざわざ大阪まで戻って自分の母親を責めたりしないよ」

私は、あきれた表情を浮かべた。

「そう。しばらく見ないうちに梢、やさしくなったのね」

母親は、目を細めて弱々しく私に言った。

やさしいのは、母親の方だった。私たちのために飲みなれないお酒をスナックで深夜から朝方にかけて飲み、その仕事に加えて週二日のパートの事務の仕事もしていた。

私は母親の陰の努力を想像すると、それに今の今まで気づかなかった自分が情けなく感じた。