「寝てる‥‥だけだよね?」

開いた薄いピンク色の唇から、私の不安な声がボソッと漏れた。

「姉ちゃん。せっかくきてくれたのはありがたいけど、お母さんはさっき寝てしまったんだ」

弟の翼が、小さな声で私にそう言った。

「そう‥‥‥なんだ」

それを聞いて、私は安堵のため息を口からこぼした。

母親の胸はかすかに上下しており、まだ生きてることは確かだった。

「さっきまで梢ちゃんのことを起きて待ってたんだけどね」

瞳に悲しい色を浮かべた祖母の美代子さんは、おっとりした口調で言った。

「そうなんですか」

私は、うるんだ瞳でそう答えた。

せっかくタイムリープして優太とデートを断って、母親と会う人生を選んだのにしゃべれなかったらなんの意味もない。

「お母さん」

私は、ベッドで寝ている母親のカサカサの手をやさしく握った。

まだかすかに感じる、母親の体温が私の手に伝わる。