「梢ちゃんかい?久しぶりだね」

こんなしんみりとした空気の中、おっとりした声が私の右隣から聞こえた。

「えっ!」

私は、右に視線を向けた。私の向けた視線の先に、丸イスに座った母方の祖母の姿が目に見えた。

年齢は七十八歳ぐらいだが、髪の毛を黒く染めているせいか若く見える。頬にシミがあるのが特徴で、老眼鏡をかけていた。

「あ、美代子おばあちゃん。お久しぶりです」

私は、祖母の名前を口にして頭を深く下げた。

母方の美代子おばあちゃんは奈良県で一人暮らしをしており、肝臓がんで亡くなった久雄おじいさんのお葬式以来、会っていなかった。だから、会うのは二年ぶりぐらいだ。

「まさか、自分の娘も肝臓がんになるなんて‥‥‥」

瞳に悲しい色を浮かべた美代子おばあちゃんは病室のベッドで寝ている、自分の娘に視線を落とした。

「まさか、もう間に合わないじゃ‥‥‥」

祖母の美代子おばあちゃんの言葉を聞いて、私の脳裏に〝死〟という言葉がよぎった。

母親は今日、たしかに亡くなることはタイムリープする前、翼からの電話で知っていた。しかし、母親が亡くなる時間までは知らなかったため、急に不安の波が押し寄せてきた。