「二千六百十円になります」

「はい」

私は運賃メーターに表示されていた、二千六百十円をタクシードライバーに手渡した。

「ありがとうね」

関西弁の口調でタクシードライバーからお礼を言われて、私はタクシーから降りた。

後ろからバタンと、ドアが閉まる音が聞こえてタクシーが私から離れていく。

「着いた」

私は母親が入院している、総合病院に到着した。

大阪駅から十五分ほどタクシーで走り、はめている腕時計の針は、午後十二時二十七分を指していた。

私は正面のドアを抜けて、病院の中に入った。外のうだるような暑さから一転、病棟は冷えた空気が全体に広がっていた。私の体に流れていたじめじめとした汗も、一気に引いた。

「涼しい」

薄いピンク色の唇を開いて、私は本音を漏らした。

一階の受付には大勢の人がイスに座って待機しており、事務職の若い女性がパソコンに向かって忙しそうにキーボードを叩いている。