「たしかにそう名乗っていましたけど、どうしたんですか?」

私は、心配そうな表情を浮かべて首をかしげた。

「この〝斎藤〟っていう客、私のときは〝井上〟って名乗っていたのよ」

「えっ!」

結衣のかすれた声を聞いて、今度は私が驚いた顔になった。

たしかに自分の名前がすんなり出てこなかったのは、今でも不思議に思う。

「でも初めて会う人に、本名教えることなんてなかなかできなくない?ほら、私たちだって、本名隠してるじゃん。きっと、言いにくいんだよ」

私はへらへら笑いながら、そう答えた。

「私も最初はそう思って気にしてなかったんだけど、最近になって怪しいなぁと思い始めたの。だから、ネットで調べたの」

「ネットで………?」

つぶやいた私の声は、なぜかかすれていた。

「うん。ネットで彼の名前を検索したら、今から二十五年前に起きた風俗嬢の妻を殺害した、〝和田哲也〟の画像が出てきたの」

「えっ!」

ふるえた声で言う結衣を見て、私はさらに驚いた顔になった。